三島由紀夫の短編紹介(2)『 花火 』
短編『 花火 』も、三島由紀夫の短編集「真夏の死」からの一篇です。
この『花火』は、「他人の空似」というネタを利用しています。短編では長編小説のようにテーマを深掘りする余裕がないので、映画や小説でよく使われるテクニックに頼ることがあります。ここでは、「他人の空似」を利用しています。
主人公は大学生の「僕」で、この僕に瓜二つの男が僕の前に現れる、という趣向です。
筋書きとしては、「僕」が夏休みにアルバイトでもしたいと思い、アルバイトに詳しいA君に何か実入りのいいアルバイトはないかと相談を持ちかけ、二人は両国の国技館近くの飲み屋に行く。
その飲み屋には「僕」とそっくりの職人風の男が時々来ていたようで、そこの女将が「僕」を見て、その男と勘違いしてしまうという一波乱がある。そこへ瓜二つの男が入店してきたので、女将が「双子かもしれませんよ、兄さん方は」などといい、彼らを同席させてしまう。
そこで、「僕」とA君と職人風の若者の三人が会話をするようになり、その途中でA君が若者に何気なく「この学生に何か良いアルバイトはないですか」と持ちかける。すると「僕」と瓜二つの若者が実に妙な話を始める。
七月十八日の両国の川開きにあたって、柳橋の菊亭という一流の待合が当日限りのアルバイトの男衆を募集しており、収入(みいり)もいいはずだと若者は言い、更にこんなことを付け加える。
「・・・あんた、今の運輸大臣の岩崎貞隆って人、知ってますか・・・あの大臣がきっと花火見物にやって来ますよ。そうしたら、二、三度、じっと顔をみつめておやんなさい。・・・ただちょっとのあいだ、穴のあくほど相手の顔をみつめてやるだけでいいんです。そうすりゃ、あとでたんまりとお祝儀が出ます。嘘は云いませんよ。・・・」
「へんな話ですね」
「私とそっくりのあんたのその顔をね」
この話を聞いた「僕」は好奇心を抑えかねて、このアルバイトに応募し採用される。
川開きの当日、男衆たちは菊亭での様々な雑用をこなし、「僕」は夕方から門のところで到着する客の対応にたまたま当たることになる。
そして、とうとう岩崎運輸相が乗った黒塗りの高級車が到着し、雨降りだったので傘をさして「僕」はその車まで迎えにいく。
さて、岩崎貞隆は「僕」の顔を見て、どんな反応を示すか? そして、その後どんなことが起こるか? それは本を読んでのお楽しみ、ということで・・・。
この小説は一種「恐怖小説」の体裁をとっています。また、昭和二十八年の作です。
最後まで付き合っていただいて、ありがとうございました。